「というわけで、頼むよアキラ君」  などと馴れ馴れしく話しかけてくるのは番組のプロデューサー。名前は……岩谷捷太郎(イワヤ・ショウタロウ)だったかな。歳は四十過ぎぐらい。会うのは今日が初めてだ。誰にでもこんなに馴れ馴れしいのだろうか。食事中に肩に手を回されるとちょっと邪魔だからやめて欲しいなあ。 「それで……我は具体的に何をすればいいのだ?」  鬼の覆面を被っていると、僕はプロレスラー・悪鬼羅(アキラ)になりきってしまう。口からは自然とそれっぽい言葉が出てくるし、自然とそれっぽい行動をとってしまうが、人喰いの鬼を自称するわりに本当に人を食べようとしたことはない。違う意味では食べちゃうけどね。 「だからさあ……えーと、アキラ君は霊感とかあるタイプだっけ? 幽霊が見えちゃったりとかさ」  今日の撮影は心霊系のテレビ番組で、心霊スポットでの撮影だと聞いている。以前CSの番組で競演した芸人さんから、「霊感がありそうな有名人」ということで推薦されてしまったのだ。  撮影のために電車で移動してきて、ここは控え室代わりに借りているという安ホテルの一室。もう少し遅い時間になってから、ここから更に車で移動するらしい。悪鬼羅の正体は隠さなければならないので、今日はずっと覆面を被ったままだ。 「うむ。見ようと思えば見ることはできる。それで、そんなものを見てどうするのだ。見つけて始末すれば良いのか?」 「いやあ、そこまでしなくてもいいよ。今日はちゃんと霊感があるらしい人がいるから、その人の言葉になんとなく合わせてくれればいいからさ」  えーと、確か今日の撮影は霊感芸人の嶋邑貞(シマムラ・タダシ)っていう人も一緒なんだっけ。実家がお寺で、ちゃんとした霊感があるよ、っていうことなんだけど……だからって、その人の発言に素直に乗っかったりなんてことが、この悪鬼羅にできる気がしないなあ。 「我を呼んで何をさせるのかと思えば……そのような役者の真似事は我の仕事ではない。我よりも向いている者がいくらでもいるだろう。我はこの弁当を喰い終わったら帰るぞ」  とまあ、こんな言葉が自然と口から出てくるのだった。そしてお弁当を食べるのを再開する。高級っぽい焼き肉弁当は美味しいなあ。 「いやいやいや! 待って待って待って! 君じゃないと困るんだ! アキラ君みたいな存在感のある人は他にいないんだよ!」 「存在感が欲しければ大仏でも置いておけ」 「いやいや、そんわけには……とにかく! アキラ君、君に出てもらわないと……」  説得できずにいる岩谷の頭に手を伸ばし、掌で包み込んでがっしりと掴む。僕はそんなつもりはないんだけど握力で軽く締め付ける。 「いぎいいっ、痛い痛い痛いっ!」 「我をそのような呼ぶことを許した覚えはない。貴様、我のことを知らぬだろう」 「いいいいっ、それは、そのっ、一応、一試合だけ観ましたっ! 動画配信でっ! いつも別の団体しか観てないので……」 「ふん。やはりその程度か」  やっぱりそんなものだろうと思ったんだよねー。プロレス好きとは聞いてたけど、悪鬼羅のことはほとんど知らなそうだったからね。 「特別に貴様にも教えてやる。我は人を喰う鬼、悪鬼羅だ。悪鬼羅刹の前の三文字で悪鬼羅と書くのが正しい表記だ。皆、我のことは悪鬼羅様と呼ぶ。貴様もそれに倣え」 「ひいいっ、でも、俺の方が、年上で……」  確かに、僕の年齢と比べれば、この人の年齢の方がずっと上だ。しかし…… 「勘違いするな。それは我が使っているこの肉体の年齢でしかない。我はそれより古くから存在するものだ」 「ああ、そういう設定……」 「まだ理解できぬか。ならば貴様をこの場で捻り潰し、頭から喰らってやる。そら、我の手から逃げて見せろ」  岩谷と目が合うと、途端にその身体が硬直した。そんなに怖かったかなあ。 「ひいいいっ! 動けっ……ない……食べないでっ……俺、まだ死にたくないっ!」 「ならば、言うべきことがあるだろう」 「はいいっ! すみませんでしたっ! 俺、いえ、私はっ、悪鬼羅様に従いますうっ! だから、命だけはっ……」 「よし」  岩谷の身体を下ろし、掴んでいた手を離してやる。そしてお弁当に向き直り、残りわずかになったそれを食べ尽くす。 「それで、我はどうすればいい? 役者の真似事をするのか?」 「いえ、それは……もう、いいです。悪鬼羅様の思う通りにしていただければ……」  岩谷はもうすっかり大人しくなってしまった。正座までして、さっきまでの馴れ馴れしさはどこにもない。そうそう。黙ってればそこそこ男前だし、肉付きも悪くない、まあまあの男なんだから。こっちの方がいいよ……なんて言葉が悪鬼羅としての僕の口から出てくることはない。 「ならば、我は自らの目で見たものを口にして、必要であればそれを始末する。それで構わぬな?」 「はい、それでお願いします……」 「よし」  空になったお弁当の蓋を閉じ、お茶を飲んでから岩谷に向き直る。途端に岩谷の背筋がぴしっと伸びる。 「足りぬ」 「ええと、それは……弁当のことですか? それとも……」 「人の食事だけで我の腹を満たすことはできぬ。これから鬼の力を使うのであれば尚の事だ」  僕としては食事は充分だけど、悪鬼羅としてはそうはいかないのがいつものことだ。しかし、悪鬼羅のことを知らないこの人はまだ分かっていないようだ。 「では、何を用意すれば?」 「必要ない。貴様を喰らうだけだ」 「ひいいっ! 命は助けてくれるんじゃ……」 「貴様の血肉を喰らうのは勘弁してやる。代わりに貴様の精力を喰らう。さあ、尻を綺麗にしてこい。表面ではなく尻の中をだぞ」 「それってつまり……ああ、行きます行きます従いますっ!」  尻をぴしゃりと叩くと、岩谷はどたばたとユニットバスに向かう。男好きじゃなさそうだけど、お尻の洗い方とか分かるのかなあ。こちらも作務衣を脱いで六尺褌一丁になり、自分の荷物から必要なものを用意しておく。ローションに特大サイズのコンドーム、それと……何となく、鬼の面を手に取る。骨董屋で手に入れてから、何となく常に持っている木彫りの面。自然とそれを被る……と、途端に我の支配力が強まる。  この面を一度被ってしまえば、しばらくは覆面を取った状態でも行動は我がある程度支配できる。さて、あの男は自分で尻が洗えるのかどうか……手伝ってやるか。 「くう、うううっ……」  やはり岩谷は尻を使った経験はないようだった。仕方なく鬼の力で尻穴をほぐしてやる。それから指で中を掻き回してやると、岩谷は耐えるように細い声を漏らす。もう少し力を使えば尻が感じるように変えてしまうこともできるが、まだそこまではしないでおくか。  裸になった岩谷は、最初の印象よりも良い肉付きをしていた。筋肉は充分についているが脂肪もそれなりにあるので、かなり肉厚な体型で、食欲をそそられる。しかしこの身体は人の血肉を喰らうのにはあまり向いていない。宣言通り、精力だけで勘弁してやろう。 「ではそろそろ、我の一物をくれてやろう」  褌を解き、仰向けで我を見上げている岩谷に一物を見せつける。コンドームの封を破ろうとしたところで、怯えた顔の岩谷が起き上がってくる。 「待って、ちょっと待って下さいっ。まだ、心の準備が……」 「そうか。ならば先に上の口で味わわせてやろう」  岩谷の目の前に一物を突きつける。しばらくそれを見つめていたが、やがて目をつぶってそれに舌を伸ばした。 「しっかり味わえ。貴様が上の口で我の精液を搾り取ることができれば、尻の負担が少し減るぞ」 「んんっ……んん、んぐ、ぐおお、おお、おごおおっ!」  岩谷は口を大きく開いて一物を呑み込もうとする。余程尻の負担を減らしたいのか、それとも少しでも先延ばしにしたいだけなのか。 「よし。最初の一発は貴様に飲ませてやろう。そのまま我を射精に導け」  我の一物が大きすぎてほとんど口に収まっていないが、舌を動かしたり、手で扱くなど工夫して我を感じさせる努力をする。今までの女との経験でも参考にしているのだろう。今のところ、それなりに快感を得ることができている。  最初の印象こそ悪かったが、こうして必死で我を喜ばせようとする姿はなかなか悪くないものだ。頭に手を置くと怯えるように身を震わせたが、そのまま軽く撫でてやるとこちらが急かさなくとも責めを激しくした。苦しそうに声を漏らしながら、もう少し奥まで呑み込む努力まで見せたので、我はこの辺りで最初の一発をくれてやることにした。 「そろそろだ。口に含んだままでいろ。そら、出るぞ」 「んんっ、んごおおっ、んんんんんっ!」  口の中に射精してやると、岩谷は変な声を上げて我の精液を受け止める。最後の一滴まで搾りきってから一物を抜くと、口の中にはまだ大量の精液が溜まっていた。 「しっかり呑み込め。吐き出すことは許さぬ」  岩谷は首を縦に振ると、目と口を閉じて喉をごくりと鳴らした。次に口を開くと、もう精液は残っていなかった。 「よし。では次だ」  また頭を軽く撫でてやってから、萎えることを知らぬ我の一物にコンドームを被せる。それから奴の尻に再び指を突き挿れ、少しだけ鬼の力を使う。これで何もしないよりは尻穴が快感を得やすくなる。少しは此奴も楽しませてやろう。  心の準備はできたのか、今度は抵抗しない。ローションを足して尻穴に一物を突き立てる。口とは違い、鬼の力のおかげでこちらは難なく奥まで呑み込んでいく。そのまま尻の奥をえぐってやると、岩谷は声を上げて身体を仰け反らせた。 「んんぎいいいっ!」  少し力を使いすぎたか。岩谷は一突き目で自分の一物から白濁した汁を漏らしてしまった。落ち着くまで少し待つと、岩谷は熱い眼差しで我を見つめてきた。ふむ。経験はなくとも、身体の方には感じる才能があったようだ。少しの手助けでここまでとは。  腰を動かし、尻穴への抜き差しを開始する。尻の中のあちこちをえぐり、突き上げながら抜き差ししてやると、岩谷の手が伸びて我の動きを止めようとする。しかし我はそれを無視して責め続ける。 「いぎいいっ、いい、いああああっ! ああ、はあああっ!」  一突きごとに岩谷の反応が変わってくる。鬼の力のせいか、元からの才能のおかげか。もう快感に変わってきているようだ。いつしか岩谷の手は我の腰を掴んで引き寄せようとまでしていた。最初からここまで感じさせるつもりはなかったのだが、まあ、いいだろう。  さて、最初だから少し早めに終わらせてやるか。我自身が感じるための動きに変え、抜き差しを激しくする。我の好みに合うようにした尻穴は、我の一物を的確に締め上げてくる。 「そろそろ出すぞ。ふううっ……」  我の一物から大量の精液が吐き出され、コンドームの中に溜まる。射精が止まってから一物を引き抜き、コンドームを外して縛る。我の一物が抜けた後、岩谷の尻穴は大きく口を開いたままだ。まだ喰らい足りないようだが、岩谷を起き上がらせて、口元に精液にまみれた一物を突きつける。 「うう、んぐうう……」  もう岩谷は抵抗する気もないのか、素直に口を開いて我の一物を舐める。尿道に残った分も搾り出し、吸い上げて舐め尽くす。こういうことも普段自分がやられているのかも知れぬ。 「悪鬼羅様ー、こちらにいらっしゃいますかー?」  ノックの音と共に声が聞こえてくる。この声は……我の所属する団体、レスリングビーストの社員であり、今回我に同行しているマネージャー兼非常食だ。岩谷は慌てた表情で我から離れようとしたが、我はその身体を押さえつけて、口に一物を突っ込んで何かを喋る前に黙らせる。 「我は今食事中だ。急を要する用事でなければ後にしろ」 「あー……はい。では、また後で」  あの男は分かっているマネージャーだ。我が「食事」と言えば何をしているのかは理解する。邪魔をすることはないし、詮索することもない。出来た男だ。 「さあ、次だ。俯せで尻をこちらに向けろ」 「はい……」  岩谷は素直に従い、身体を重そうに動かす。我は二つ目のコンドームを開封し、次の準備を始めた。 「我々は心霊スポットとして一部で話題になっている、某県某所にある廃病院に来ています」  平静を装って台本通りの言葉を口にするが、今すぐにでも逃げ出してしまいたいぐらいこういうのが苦手だ。初めから断りたかったが、世話になっているプロデューサーの岩谷さんに頼まれては断ることが出来なかった。ちなみにその岩谷さんは今日は随分疲れ切った顔をしている。おかしいなあ。昼間は普通に元気だったような気がするんだけども。 「これから中に入って、様々な怖い噂は本当なのか検証してみたいと思います。僕一人では心許ないので、頼もしい相棒をお呼びします。おなじみ霊感芸人の嶋邑(シマムラ)!」 「どうも。一応霊感があるということで通っている嶋邑貞(タダシ)です。よろしくお願いします」  俺を慕う後輩芸人である嶋邑は実家がお寺で、本人も霊感があると言っている。坊主頭だが筋肉質で体格が良く、服装も普通の服なのでお坊さんと言うよりはアスリートか何かっぽい。 「今道(コンドウ)さんも霊感あるんでしたっけ?」  嶋邑が台本通りにそんなことを聞いてくる。本当はわざわざ聞かなくたって知ってるはずだ。 「ちょっとだけな。お前ほどくっきりとは見えないけど、いないはずの人影っぽいのが見えることはあるよ」  俺は小さい頃からそう言うのが少しだけ見えていたせいで……慣れることなどなくそのまま苦手になった。暗いとどこかに見えそうな気がするので、寝る時も少しだけ明かりを点けておくタイプだ。身体がデカいわりに女の子みたいだとからかわれたりギャップが可愛いとか言われたりする。  そこから少しだけ他愛ないトークをしてから、ちゃんとしたゲストを呼び込む流れへと移行する。 「本日、我々と一緒に歩いてくれるのは……まずはこの方、ジェニーちゃん!」 「ハーイ。安東(アンドウ)ジェニファーでーす」  最近わりと人気のモデル系タレントのジェニーちゃん。長い金髪と青い目の整った顔立ちが印象的なハーフ美女だ。俺より一回り以上年下の二十歳だそうだ。うん、今日もとっても可愛いなあ。笑顔がとても良いのだ。心霊スポットには場違いだけども。 「ジェニーちゃんは幽霊とかどうですか?」 「一度ぐらいは見てみたいですけど、まだ会ったことないですねー」  事前の情報ではジェニーちゃんは霊感は皆無だと聞いている。これ、可愛い女の子じゃなくてむさ苦しいおっさん(俺)が一人だけ怖がる流れになりそうだ。後一人のゲストはこういうのを怖がることなど絶対にないだろうしなあ。というわけで最後のゲストだ。 「もう一人のゲストは何となく霊感とかありそうなこのお方。プロレスラーの悪鬼羅様ー」  俺の呼びかけはろくに聞いておらず、周りのスタッフに促されてからころと下駄を鳴らして出てきたのは覆面レスラーの悪鬼羅様。背中に悪鬼羅刹と書かれた黒い作務衣を着ている。俺も体格は良い方だけど、身長二メートルでとんでもなく分厚いマッチョ体型は……一緒の画面に収めにくそうだなあ。 「我は人を喰う鬼。悪鬼羅だ。悪鬼羅刹の前の三文字で悪鬼羅、と書く。気軽に悪鬼羅様と呼ぶのを推奨する」 「悪鬼羅様は霊感とかありますか? 幽霊が見えたりとか……」 「我は鬼だからな。見ようと思えば見ることは出来る。そちらに焦点を合わせるとうんざりするほど見えてしまうから、普段は見ないようにしているが」  悪鬼羅様は霊感ありそうだというイメージで呼ぶことになったんだけど、どうやらそれは正しかったようだ。まあ、口だけならどうとでも言えるけども。  そこからは中に入る前に他愛のないトークをする。俺としてはできるだけ引き延ばしたいのだ。 「ジェニーちゃんは子供の頃から格闘技好き、ということですけど……プロレスはどうですか?」  と、話を振ると、待ってましたとばかりにジェニーちゃんは悪鬼羅様の太い腕に抱きつく。うーん、並べると同じ生き物とは思えない体格差だ。 「プロレスはちょっとだけしか観たことないんですけど、悪鬼羅様が格好良いのでこれからはもっと観てみようと思いまーす」 「ほう。ジェニーちゃんの好みは悪鬼羅様のような?」 「はい。大きい人がいいですねー。それに、悪鬼羅様は子供の頃に好きだった格闘家にちょっと似てるんですよねー。その人もアキラって言うんですけど、悪鬼羅様は知ってます? 明星アキラって」  それはまさしく……悪鬼羅様の正体だと噂されている、若いうちに引退した格闘家の名前だ。同じ名前だし、父親が悪鬼羅様の所属するプロレス団体の社長だし、こんな恵まれた体格の人はそうそういないのでほぼ間違いないとされている。公式には正体不明ということになっているし、悪鬼羅様は人前では絶対に覆面を取らないのでまあ、あくまでそういう噂、ということにしておくのがいいだろう。 「うむ。知っているぞ。奴とは付き合いもあるのでな」  ちょっと不思議ちゃんな悪鬼羅様は、きわどい質問をすると平気で放送しにくいことを言ってしまうそうで恐ろしい。ぼろが出ないうちにトークを切り上げて中に入ろう。嫌だけど。  廃病院の中に下駄の音が響く。俺は先頭を歩かされ、提灯型の明かりを持たされている。案の定、この状況で怖がっているのは俺だけだった。ジェニーちゃんは悪鬼羅様と腕を組んで歩いている。デートか。悪鬼羅様は女子供には優しいんだよなー。  歩いていくうちに小児科病棟の一室にたどり着く。ここでの人影を見たとか、子供の声が聞こえたとかそんな噂がある。 「あ、あそこに何かいそうですよ」  と、嶋邑が指差す。うん。俺にもちょっと見える。ぼんやりと小さな人影っぽい何かが……近付いていくと、逆に見えづらくなる。この明かりのせいだろうか。でもこれは絶対に消さないぞ。 「どうやらここで無くなった患者さんのようですね。小さいからやはり子供でしょうか」  霊感のある嶋邑がレポートする。詳細に語るなよう。でも子供のうちに死んじゃったってことかー。可哀想だなあ……なんて思ってると死んだ人の霊に取り憑かれやすくなったりするんだっけ? えー、可哀想じゃない可哀想じゃない……うう、やっぱり可哀想だよなあ。でも怖いよう。俺も悪鬼羅様にすがりつきたい。 「うむ。童だな。どうやら生まれついての病で、その生のほとんどをこの病院で過ごし、幼いうちに死んでしまったようだ」  悪鬼羅様にも見えているようだ。悪鬼羅様の性格からして、見えないけど話を合わせている、ということはないだろう。 「子供の霊か……じゃあ、この子が噂の出所ですかね。嶋邑、どうする?」 「一応除霊することはできます。少し時間をいただければ……」  さすがはお寺の息子。芸人なんてやってないでお坊さんにならばいいのになあ。そうすれば俺が一緒にこんなロケに行かされることもなかったんじゃないだろうか。 「除霊など必要ない。此奴は遊びたいだけのようだからな。危険などない。後で玩具や菓子などを供えておけばいい。童の霊は一人ではないようだからな。飽きるまでここで遊んで、満足したら消えるだろうよ。そのうちプロレス会場にも招待してやろう」 「悪鬼羅様優しーい。私も今度お供え物持ってきまーす。待っててねー」  ジェニーちゃんは子供の霊のいる方に手を振る。子供にも優しい良い子なのだ。霊感はやはりないようで、視線は微妙にずれている。 「では次の場所へ行きましょうか。他の場所にも色々噂があるので」  嶋邑は見せ場になるはずだった除霊が出来ずにやや不満そうだが、気にせずに行こう。  その後あちこちを見て回るが、なかなかテレビ的にいい感じの心霊現象には遭遇しない。事前調査したスタッフの話ではもう少し色々あった、ということなんだけどなあ。時々悪鬼羅様が何もない空間に平手打ちをしたり、何かを指で弾いたりしているが気にしないことにする。何となく、集まってきた動物霊か何かっぽいものを悪鬼羅様が叩き潰しているような感じがするけども触れないでおく。 「ここだな。あの童の言っていたのは」 「え? あの子供の霊が何か言ってたんですか?」  目の前にあるのは院長室と書かれたプレートのあるドア。確かに、ここが一番色々な噂のある場所だ。体調が悪くなったりした人も……うう、俺もちょっと…… 「うむ。ここには悪霊がいるようだ。さあ、開けるぞ」  俺が進むのを躊躇っているうちに、悪鬼羅様がドアを開けてしまう。うう、やっぱり何か、嫌なモノがあるような気がする。人影は……見えない。でも何か、大きな影があるような気がするぞ。 「院長だ。不祥事を隠し、借金を重ねたあげく、後のことなど考えず自分が楽になるため命を絶ったようだな」  この、大きな何かの影が……院長だって? すぐに逃げ出したい気持ちを抑えて、悪霊はカメラには映るのかなあ……などと心配してみる。 「これは……除霊した方がいいですね。ですよね?」  俺よりもはっきりと見えているであろう嶋邑が悪鬼羅様にお伺いを立てる。なんだか強そうだけど、本職じゃないこいつに除霊できるんだろうか。 「うむ。やってみろ」 「はいっ!」  嶋邑が一歩前に出て、数珠など取り出してお経を唱え始める。効くんだろうか……と心配していたら、嶋邑が見えない何かに吹き飛ばされた。あれ、これもしかして……ちょっとヤバい? 「ぐううっ……」 「逆恨みだけでここまで肥大化するとはな。仕方ない。やはり我が始末しよう」 「悪鬼羅様頑張ってー!」  霊感のないジェニーちゃんも多少は何かを感じているのか、祈るように悪鬼羅様を応援する。悪鬼羅様が前に出ると、暴風が吹いたような音がして……悪鬼羅様の作務衣の裾が揺れただけだった。悪鬼羅様は悪霊を睨み付け、右手を伸ばして何かを掴むような仕草をした。するとどこかから悲鳴のような声が聞こえてくる。 「その程度の力で我に勝てると思うな。さあ、貴様の醜い姿を皆に見せてやれ」  空中に何か、大きな手のような影がはっきりと浮かび上がり、スタッフもざわつく。。それは黒い影……もはや人影とも呼べない巨大な何かを掴んでいて、今にも握りつぶしてしまいそうだった。どうやら、大きな手は悪鬼羅様の力によるものらしい。悪鬼羅様って、本当に鬼だったのか……? 「悪鬼羅様ー、やっちゃえー!」  ジェニーちゃんの黄色い声援が飛ぶ。どうやら今は見えているようだ。カメラにも少しは映っているかも知れない。 「うむ。さあ、我の信望者達よ。これから見せるものが我の、真の『鬼一口』である。刮目せよ!」  鬼一口と言えば、悪鬼羅様がここぞという時に使う必殺技だ。あれは一撃必殺の頭突きだけど、「真の」ってことは何か本当の鬼一口は違う技なのか。  空間に巨大な鬼の頭のような影が浮かび上がると、それは大きく口を開き、悪霊に噛みついた。それだけで、黒い影のほとんどが消えて無くなった。わずかに残った部分も溶けるように消えていく。そして…… 「うむ。不味い。やはり悪霊は酷い味だな。我が力の糧にはなるが……口直しが必要だな」  そして、悪鬼羅様と目が合う。どうやら、また俺が喰われる流れのようだ……その前にこのロケを終わらせないと。 「うああっ、悪鬼羅様ぁっ……」 「悪くない一物だ。そうだ。もっとそこを突いてこい」  撮影後に戻ったホテルの一室で、俺のチンポは悪鬼羅様のケツ穴に呑み込まれていた。あの身体、男らしさでケツ掘られる方も好きだなんて……しかもこれ、やばい。今まで女とやったりニューハーフとやったりもしたけど、今まで経験した中で一番気持ちいい穴かも知れない。もう排泄のための穴とは思えない。ザーメンを搾り取ることに特化した器官、という感じだ。 「そう、言われてもっ……動くと、出ちゃいそうでっ……」 「なんと軟弱な。仕方ない。少し鬼の力を使ってやる。射精してもいいが、勃起を維持しろ」  上から跨っている悪鬼羅様が、俺のキンタマの下あたりを指でとんと突く。どうやら本当に不思議な力があるのかも知れない悪鬼羅様が何かをしたのかも知れないが、今のところ何が変わったのかは分からない。 「ああっ、駄目です、出ちゃいます、あああっ!」  結局我慢できずに射精してしまう。ああ、悪鬼羅様の中に出しちゃうなんて……求められてのこととはいえ、とんでもないことをしてしまった気分だ。 「達したか。まあいい。そのまま続けろ」 「ぐあっ、ああ、それ、いぎいいっ、いいいっ……」  俺が射精直後でも、悪鬼羅様は気にせず腰をぐいんいんと動かす。体格が違いすぎて抵抗したところで俺に止めることは出来ないので、されるがままだ。悪鬼羅様も勃起したデカいチンポからだらだらと汁を垂らしていて、感じているとは思うんだけども腕を組んで平然と腰を動かしている。  本当は今日、悪鬼羅様にケツ掘ってもらえるんじゃないかと期待して、さっきもケツの中洗って、自分でちょっと広げたりして待ってたのに……今日はそっちは間に合ってると言われてしまった。そう言えば前に会ったとき、「今度は下の口で喰らってやる」なんてことを言ってたっけ。 「そら、そろそろ動けるだろう。我を満足させろ」 「ううう……はいい……」  射精したばかりだが、俺のチンポは勃起を維持したままだった。いつもはこんなに強くないんだけどなあ。敏感になりすぎていた感度が多少は鈍ってきたので、頑張って悪鬼羅様のケツを下から突き上げる。さっき言っていた「そこ」がもうどこなのかは分からないので、闇雲に突きまくる。 「矢鱈に突けばいいというものではない。自分が責められたい場所をえぐってみろ」  自分が気持ち良かった場所……どこだったっけ。責められてるときは意外とよく分からないんだよなー。俺の勘だとこの辺じゃないかと思う。えいやっ。 「うむ、いいぞ。その調子だ」  どうやら当たりだったらしい。その命令されているからだけではなくて、折角だから悪鬼羅様に気持ち良くなってもらいたい、という気持ちもあるので、亀頭でそこをしっかりえぐれるように、すくい上げるような動きで腰を動かす。あー、でもこれ、俺もやばいっ。 「よし。そろそろ最初の一発をくれてやろう。口を開けていろっ」 「あいいっ」  言われるがままに口を開いて悪鬼羅様を見る。覆面に隠れていて表情はよく分からないが、少しだけ呼吸が荒くなっているような気がする……なんて思っていたら。 「出るぞっ。しっかり受け取れっ!」  目の前で悪鬼羅様のデカいチンポからザーメンが噴き上がり、俺に浴びせかけられる。かなり量が多く、勢いもあって、結構な量が口に入ってしまった。味や臭いは苦手だが、自然と飲み込んでしまっていた。そしてそれがきっかけになったかのように、俺も二回目の射精をしてしまった。 「んんっ、うああっ、ああ、はああ……」 「また出したな。もう一発ぐらいは搾り出せ」  二発出し切っても、今日はチンポが全然萎えてくれない。体力的にもきつくなってきたけど、後一発頑張るしかないか……なんて思ってたら、悪鬼羅様が入り口のドアの方を睨み付ける。 「そこの坊主、覗いてないで入ってこい」 「……はい」  わずかに開いていたらしいドアを大きく開いて、後輩の嶋邑が入ってくる。ズボンの股間が大きく盛り上がってるのはどういうことだ。 「貴様、そんなにこの男のことが好きか?」  え、俺のことを? まさかそんな。ねえ? 「好きって言うか……尊敬はしてますけど、そういうのじゃなくて……」 「だが欲情はしているのだろう」 「……はい。今道さんの尻、滅茶苦茶そそるんです」  それって……恋愛感情はないけどエロいことはしたい、ってことなのか。ああ、まあ、そういうのは、あるよなあ。付き合いたくはないけどセックスはしたい女の子とかいるもんなー。その対象がまさかの俺、っていうだけだ。 「そうか。丁度いい。どうやら此奴、今日は尻を掘られたかったらしいぞ。我は以前から、今日は此奴を下の口で喰らうと約束していたのでな。尻を掘ってやることは出来ぬのだ」  うう、約束してたからって、別にそれだけじゃなくてもいいのになあ…… 「い、いいんですか? 今道さん?」  うう、後輩に掘られるのか……ちょっと抵抗があるけど…… 「今日だけ、だぞ」 「はいっ!」  嶋邑は下を脱ぎながらベッドに上がってくる。その間に俺の身体はごろりとひっくり返されて、体勢としては正上位で俺が悪鬼羅様のケツを掘っているような形だ。現実には俺が捕らえられて搾られている状態だけども。  剥き出しになった俺のケツを嶋邑の指がまさぐる。悪鬼羅様にローションを手渡され、その滑りを借りて指を突っ込んでくる。事前にある程度ほぐしてあったそこは、刺激を求めて指を簡単に飲み込んでしまう。 「もう準備万端じゃないですか。俺のそんなにデカくないんで、もう突っ込んじゃって大丈夫ですよね?」  と、充分にデカいチンポで入り口に触れてくる。確かに悪鬼羅様に比べると随分小さく見えるけども。 「おい、そのまま突っ込む気か? コンドームぐらいないのかよ」 「あ、持ってます。いつでも今道さんのケツ掘れるように」  こいつ、本当に普段から俺のケツ狙ってたんだなあ……嶋邑は脱いだズボンからコンドームを出して、自分のチンポに被せる。そこにローションをまぶすと、今度はすぐにチンポを突き立ててきた。 「うあっ……いきなり、突っ込むなっ!」 「むっ。貴様、また我の中に漏らしたな」 「今道さん、俺のチンポで感じてくれてるんですかっ。嬉しいです!」  悪鬼羅様のせいで、最初の一突きでちょっと出ちゃったのがばれてしまった。あー、もういいや。今日だけだっ! 「そうだっ。嶋邑っ、俺のケツ、思いっきり掘ってくれっ!」 「はいっ! 俺のチンポでたっぷり感じて下さい!」  嶋邑が俺のケツを突きまくる。同時にチンポを絞り上げられているせいで、随分と乱暴な突き込みだが気持ち良くてたまらなかった。 「ああ、気持ちいいっ。悪鬼羅様、またすぐ出ちゃいそうですっ!」 「どんどん漏らせ。絞り尽くしてやる」 「ああ、出るっ。出ます、あああっ!」 「うはあっ。今道さんのケツ、気持ちいいっ! ああ、そんなに締めないで、あああっ!」  俺がまた射精してしまうと、すぐにケツの中でチンポが脈動するのを感じた。もう出したのか、と聞く前にチンポが引き抜かれる。さしてコンドームの封を破る音が聞こえ、またすぐにチンポが突っ込まれる。 「もう一発ぐらいはいいですよね?」 「うう、分かったっ。二発でも三発でも出せっ! 今日だけだからなっ!」 「はいっ!」  夜はまだまだ続きそうだ。明日の朝、起きられるかな……  後日、レスリング・ビーストの試合を観に行ったら、しめ縄のようなものに囲われた特別招待席というのがいくつかあった。最後まで誰も座ってなかったけど、何かぼんやりとした影が座っているような気がした。もしかしてあの子供の霊、本当に招待したのか。ちなみに隣にジェニーちゃんが座ってて、その誰もいない席に自腹で買ったっぽい悪鬼羅様のグッズを置いたりしていた。  同じ時期、あの時の撮影した番組が放送されてあちこちで話題になったようだ。悪霊らしきものがテレビにもぼんやりと映っていたようで、ホンモノだニセモノだの論争は結構盛り上がっているらしい。ちなみにあの廃病院、あの院長の霊が原因っぽい方の噂はぱったり無くなった。子供の霊の方の噂はちゃんと残っていて、今ではオモチャやお菓子が供えられたりしている。  また、悪鬼羅様のインパクトは結構あったようで、他の地上波の番組にも出演していたのを見かけたが、扱い方が難しいのでそう簡単に定着はしないんじゃないかと俺は思う。  あ、岩谷プロデューサー、おはようございます。え、悪鬼羅様を番組に呼んでもなかなかケツを掘ってくれないって? 知らないです、そんなこと。ああ、俺も掘られたいよう。  あーあ。悪鬼羅様にちゃんと会えるのはいつになるかなあ。今度こそ掘られたい……あ、もうすぐCSの番組の撮影で……今度はレオさんがゲストだったっけ? 時間があったらまた俺のケツ掘ってくれるかなー。悪鬼羅様もいいけどレオさんもね。  嶋邑がまた俺のケツを狙ってるみたいだけど、一対一じゃやらないからなっ。霊感芸人なんてやめて、プロレスラーになって出直してきたら考えてやるかもなー。