「意外と……あっさり来られるものなんだな、ここまでは」 「この国は閉ざされた国ではないからな。行き来できないのは帝国との国境だけだ」  兄の言葉に父が反応する。どちらもしっかり鍛えられた良い体格で、顔の作りなども似ている。こうして並べて見る機会はなかなかないが、改めて親子なのだと認識させられる。 「知識としては分かってるんだけどな。やっぱり、王国に来るのって緊張するよな」 「まあ、そうですね。やはり、我々にとってここは……」  言いかけて、次の言葉を押し止める。防音結界は張っているが、どこでどうやって監視されているかも分からない。何しろここは……敵国の中心なのだから。この国にとって我々は敵国の人間である、と言った方が正しいか。いつも攻めてくるのはこの神聖アースガルド王国からだ。我々の住むガーライル帝国は、建国から五百年の間、ずっと親の敵のように敵視され続けている。 「父上は初めてではないんですか?」 「ああ。私もこれまでに様々な仕事を任されてきたからな」 「親父は何でもできるもんな」 「何でもできる、とは言えないが、それに近付けるように努力はしてきたつもりだ」  優秀な軍人を多数輩出する名家に生まれた父は、帝国軍人としてどんな任務でもこなせるように努力をしてきたという。今では皇帝直属大隊の副隊長と、最高議会の議員という二つの重要な役目もあるのだが、それ以外にも様々な仕事を任される。しかし、そのどれもが父でないとできない仕事というわけではなく、一部では「代わりのいる男」などという不名誉なあだ名で呼ぶ者もいるという。失礼な話だが、どうも父はその生き方を自ら選んでいるようなので、こちらからは何も言えない。 「お前達には私のようになれとは言わない。ただ、その名に恥じない誇りある帝国軍人になって欲しい」 「はい、父上」 「へいへい。親父はいつもそればっかりだなあ」 「む、そうだったか?」  いつも聞かされるその言葉。聞かされる度に、こうして話せるのはこれが最後になってしまうのではないか、という不安に駆られる。特にこういった任務の時は。 「父上……お気を付けて。無事に任務を終えて、一緒に帝都に帰りましょう」 「私の仕事など大したことではない。危険なのはお前達の方だ。深入りはしなくていい。とにかく、無事に帰ることを優先しろ」 「はい、父上」  反射的に返事をするが、父上の任務の方がずっと命の危険があることを知っている。僕と兄は目配せをして頷き合う。父が無事に帰るためには、僕達の役割がとても重要だ。後で父に何を言われようと構わない。僕達は三人が無事で一緒に帰るために命を賭けて戦う。そのための準備はしてきたつもりだ。 「では私はこれから別行動だ。お前達が無事に帰れるように祈っている」  こんな時でも父上はいつもと変わらぬ様子のまま出て行ってしまう。父の姿が見えなくなってから、あまり信心深くはない僕も祈りを捧げた。これが父との最後の対面にならないように。一人で悪しき王を倒し帝国を作ったとされる英雄の加護がありますように。 「報告します。王都に侵入した帝国兵の、リーダーと思われる男の正体が判明しました」 「そうか。どんな奴だ」  帝国軍の者と思しき三人組がこの王都に侵入しているという情報が入り、詳細を調べさせていた。もちろん帝国軍の制服など着ているわけがない侵入者が帝国兵だと気付いたのは、あらかじめ帝国軍の要注意人物をリストアップしておいたためだ。帝国内に諜報員を複数潜り込ませていたことがこうして役に立った。 「名前はリックハルト・ホワイトルーク。これまでに様々な部隊に所属し、経験を積んできたベテランです。所属は……皇帝直属大隊の副隊長、ということです」 「それなりの地位にいるようだが……諜報員の真似事をするような立場の軍人なのか?」  皇帝直属大隊と言えば、皇帝が直接前線に出るような重要な戦いに出てくる部隊だろう。例えば、我が国との戦いのような。つまり、平時は暇だということだ。その副隊長となれば、大出世した者がお飾りで配属されるような立場であってもおかしくない。 「いえ……リックハルトは優秀な軍人を多数輩出する名家の当主であり、帝国最高議会の議員でもあるということです。そのような危険な任務に就く必要がある立場だとは……」 「ふむ……となると、その男でないとできない任務があるということか。何か、特別な技術を持っているという情報はないのか?」 「それが……むしろその逆で。何をやらせてもそれなりにこなすようですが、この男でなければならないことはなく、一部では『代わりのいる男』と呼ばれることもあるようです」 「『代わりのいる男』か……」  それではますます、そんな奴がこうして敵対する国の中心にまでやってくる理由が分からない。諜報や工作活動ならば、今の帝国であっても向いている人材は他にいくらでもいるだろう。組織としては便利に使いやすそうな人材を、わざわざ死にに行かせるようなものだ。ううむ、分からない。 「リックハルトのことは保留だ。もう少し自由に動かせてしっかり監視しろ。王宮などに侵入するようなことがあれば即座に対処しなければならないが、それまでは泳がせる」 「分かりました」  捕らえて殺してしまうのは簡単だろうが、それではまた次の帝国兵が来るだけだ。まずは目的を探らなければ…… 「ところで、残りの二人の情報はないのか?」 「写真がないもので確定情報ではありませんが、同じくホワイトルーク家の者であると思われます。一人は恐らくリックハルトの実子であるヴィクター、もう一人はその兄のウィルカーブではないかと」 「その二人が特別な技術を持っているということはありそうか?」 「いえ、そういうわけではないようです。二人とも戦闘技術は充分にあるようですが、特別な技術を持っているという情報は入っていません。情報は父親より少ないですが、要注意人物としては名前が挙がっていないですし……」  帝国に潜入している諜報員の情報を信じるのであれば、息子二人はさほどの脅威ではないということだ。あくまで注意すべきはリックハルト……しかしこのリックハルトもの何を注意すべきなのかはよく分からない。やはり情報が足りない。 「やはり監視を続けるしかないか。何か動きがあればすぐに報告しろ」 「はい。では現状維持ですね。一応、こちらに今のところ分かっている情報をまとめておきましたので」  と、書類の束を差し出してくる。一枚目には三人組の不鮮明な写真と、目撃情報など。二枚目には……リックハルト・ホワイトルークの情報。大まかな経歴などと共に、こちらは鮮明な写真があった。それを目にすると、何故か私はその写真からしばらく目が離せなかった。そして、自然と口にしていた。 「向こうから仕掛けてきたら……必ず生きたまま捕らえてくれ」 「はい。そう指示を出しておきます。目的などを白状させなければなりませんからね」 「ああ、そうだな……」  そうだ。そういう理由があるから私はそう指示を出したのだ。そのはずだ…… 「あーあ。話には聞いてたけどよ、面白くねえ街だなあ。どこで遊べってんだよ」 「兄上にはそうでしょうね」  この国は、国が理想としている国民のイメージに合う人ほど暮らしやすいが、そうでない人には暮らしにくい国だという。言ってしまえば真面目で遊び心が全くない人にとってはとても暮らしやすいが、不真面目で遊んでばかりのような人にとってはとても居心地が悪い。ただ、大半の人はその中間なので、多少の我慢をすれば安全で安心な生活が送れるという。ただし、人種など様々な理由で差別を受けることはあるようで、どう頑張っても居心地の悪い思いをする人はいるようだ。  そして私はこの国でも問題なく暮らせそうだが、目の前でぼやいている我が兄はこの国では暮らせないタイプの人間だ。その大きな理由の一つが…… 「スケベな店とかハッテン場とか全然ないんだろ? みんなこんなところでどうやって暮らしてるんだろうなー」  まあ、そういうわけである。ウィルカーブ・ホワイトルーク。能力はあるが仕事そっちのけで遊んでばかりの問題児。優秀な軍人を多数輩出するホワイトルーク家の名が……と思ったが、問題の大きさでは父の方が上だった。  父、リックハルト・ホワイトルークは軍人としては優秀だが、性欲が強すぎるのか何人もの女性を妊娠させてしまい、結果として様々な人種の異母兄弟が。ちなみに兄弟の数は多いが、母親が同じなのは僕とこの兄だけだ。 「それにこの国、同性愛とか駄目なんだろ? 女もいいけどさ、セックスは男同士の方が楽しいのになあ」 「法律で禁止されているわけではないので、こっそり集まる場所はあるらしいですよ」  禁止されている訳ではないが、同性愛者の立場は弱い。この国の同性愛者達は自らがそうであることを隠していて、その中の一部の人はどこかで集まっている……らしい。少なくとも、街の中心部にそう言った場所はないようだ。 「あ、そうなのか? どこにあるんだろうな」 「さあ。そこまでは」  父が熱心に調べていたが、場所が判明したのかどうかは聞いていない。興味はないし、そんな場所に立ち寄っている余裕はないのだ。 「同性愛者はそれでいいとして……女好きの男はどうやって処理してるんだ?」  性産業などに厳しいこの国には、性的なサービスをしてくれる店、というものがない。それどころか、本などポルノへの規制も強いらしい。僕は特に興味なかったのだが、父がそちら方面のことを随分と熱心に調べていたので知った。 「噂によると、同性愛者をあくまで道具として使って、性欲を処理することもあるそうですよ」 「ふーん」  やはり兄はそういうことには興味がないようだ。兄はおかしな人間だが、相手を無理矢理従わせることは好まない。まあ、それが長男ながらホワイトルーク家の跡継ぎには向いていない、と言われる理由の一つでもあるのだが。  さて、これから僕達にはとても大事な任務がある。しかしまだ予定の時間までにはかなり余裕がある。目立つわけにはいかないので無駄に外をうろつくわけにもいかないが、近くで食事を摂るぐらいは大丈夫だろう。 「予定の時間までまだ時間がありますが、兄上は……」  そう言いかけたところで、急に後ろから抱き締められた。 「時間あるんなら、一発ヤっとこうぜ。ちゃんと連携が取れるように、しっかり接続しておかないとな」 「はい。兄上」  そうだ。それは重要なことで、これから行うのは任務のために必要な行為だ。だから、実の兄弟ですることはおかしいことではない。 「おい、ヴィック。二人っきりの時ぐらいはもうちょっと甘えてこいよ。いつも優等生でいなくたっていいだろ。親父だって必要なとき以外は結構な駄目人間だろ」 「そう、だね……兄さん」  不向きな兄の代わりに家を継ぐことを目標に教育されてきた僕は、信頼され、尊敬される優秀な帝国軍人になるべく努力をしてきた。求められている優等生を演じているつもりはないが、時々は誰かに甘えたくなることもある。それをいつも受け止めてくれるのはこの兄だった。期待してくれている父に甘えることはどうしてもできない。一度甘えてしまったら、歯止めが利かなくなってしまいそうだったから。  兄は服を脱いでからベッドに上がる。いつもは帝国軍の制服の下にセクシー下着を着けていることが多いが、今日は服も下着もごく普通のものだ。加えて、兄は肉体を変化させる獣因子などを魔術によって書き込み、本来の普通人種ではない姿になっていることが多いため、今日のように普通の姿で普通の恰好をしているのは珍しい。 「ん、どうした? お前も脱いでこっちに来いよ」  ボクサー型のパンツ一枚の兄に手招きされ、僕も服を脱いでパンツ一枚に。ベッドに上がった途端に抱き締められ、こちらの口の中を舐めるように口付けてくる。それから兄の口による愛撫あちこちに移動する。耳や首筋、乳首や腋などを刺激され、まだ触れられていないチンポを硬くしてしまう。兄は僕の股間の盛り上がりを見ていやらしい笑みを浮かべると、僕のパンツを脱がせた。  脚を抱えて尻を上に向けた姿勢にされると、兄の指が僕の尻穴に触れ、すぐに魔術によって洗浄される。それからそこに舌を這わせてくる。まずは入り口周辺をほぐすように。それから少しだけ開いた穴に舌先を侵入させてくる。 「はああ……」  こんな状況でセックスを楽しむなんて……という気持ちはありつつも、刺激されればその気になってしまう。しばらくして舌が離れ、今度は兄の指がそこに、ローションの滑りを借りて入ってくる。 「くうっ……」  まずはゆっくり動いて穴を広げられる。兄とはもう何度も交わっているが、それでもしっかり広げておかなければならない。僕が手を伸ばすと、届く位置まで身体の位置を移動させてくれた。布越しに触れる兄のチンポ。ここも父に似てとても大きく、硬く張っていた。それだけでは我慢できず、パンツの中に手を突っ込んで握った。 「それが欲しかったか? すぐに挿れてやるから待ってろよー」  兄は呪文を唱え、魔術によって僕の尻穴をほぐす。最初は指でゆっくり広げるつもりでいても、結局こうなるのがいつものことだった。 あっという間に指が三本、四本と無理なく入るようになる。  指が引き抜かれたので、僕は姿勢を変えて兄の股間に顔を寄せる。そしてパンツを下ろして、飛び出てきたチンポにかぶりつく。全体の半分も口に含むことが出来ないが、亀頭を精一杯味わい、舌を使ってしっかり刺激する。一旦口を離してサオ全体やタマを舐めたりもしておく。 「ちょっとは加減してくれよー。俺、お前に口でやられるとすぐに出ちまうからな」  そうだ。兄は何度も僕の口の中や顔の前で暴発させてきた。それはそれでいいのだが、そのまま続けての二発目はチンポの硬さがわずかに落ちる……気がする。それはなるべく避けたいので、早めに切り上げた。  今度は自分から先程と同じ姿勢になると、尻に入っていた張り型が引き抜かれ、すぐに兄のチンポが突き立てられる。いきなり奥まで押し込まれると、押し出されるように僕のチンポから何かが漏れる感触があった。そこからゆっくりとした抜き差しが始まり、まだ少しきつい感じのある尻穴は兄のチンポに慣らされていく。 「あー、やっぱりお前のケツは最高だな。やっぱり兄弟だから身体の相性もいいのかもなっ」  そう言ってから、兄が口付けて来たのでそれに応える。唾液を交換するようなつもりでねっとりと舌を絡ませながら、背中に腕を回してしがみつく。兄も僕の身体を強く抱き締めてくれた。そのまま腰を動かし、尻の奥をえぐり、中をやや乱暴に掻き回す。その衝撃は僕が求めているものだった。 「ぷはあっ。ああ、やっぱりすぐに出ちまいそうだっ。ヴィック、どうして欲しいっ?」 「うう、もう少し、我慢してっ……」 「よしっ」  兄は責めは止めないまま再び呪文を唱える。今度は一時的に射精できないようにするものだ。兄はそれを自身に使用し、射精したくても出来ない状態で僕を責めてくる。 「うう、うああ、ああ、兄さん、くう、うううっ……」  激しい突き込み感じさせられ、僕は大きな声を漏らしそうになる。何とか声を抑えるが、身体の反応はどうしようもない。僕の身体は声以外の色々なものを漏らし、僕と兄の身体を汚した。 「ああ、そろそろ俺も出すぞっ。ぐううっ、ううううっ……」  射精制限の魔術が解ける。兄のチンポが脈動し、精液を送り込んでいるのが分かる。全てを出し切った後、兄は僕の上に覆い被さってきた。それから再び唇を重ね、舌と舌が軽く触れる程度のキス。  二人ともしばらくそのまま動かずにいたが、やがて本来の目的(というよりはセックスをするための名目か)を思い出した兄が、自分と僕の頭をそれぞれ指先で軽くとんとんと叩く。  僕と兄が連携のために精神を接続している経路は、使わずにいると少しずつ弱まってしまう。その接続を強化するためにはこうしてセックスをするのが一番安全で効率が良いのだった。接続状態を確認するためにチャンネルを開くと、兄からのメッセージが届く。  このままもう一回? 本当は任務のために少しでも体力を温存しておくべきなのだろうが、ここで断るのは兄のやる気に直結する。時間にはまだ余裕があるから、もう一回ぐらいはいいだろう。うん。  ここだ。看板は掲げられていないが、情報ではこの建物で合っているはずだ。  王都から少し離れた地域。整った印象の王都中心部に比べると、それぞれが好き勝手に建物を建てているように見える。この国で暮らしにくい理由があるが離れることも出来ない人達が住んでいたり、大っぴらにしにくい趣味や嗜好を持つ者達がこっそり集まったりしているようだ。  目的の建物に入ると、カウンターの向こうから強面の男がこちらを見る。気にせずに適当なカウンター席に腰を下ろすと、会話を止めた他の客達の視線がこちらに集中するのを感じた。私がどういう客なのかを観察しているようだ。 「何を飲むんだ?」  強面の店員がぶっきらぼうに注文を聞く。差し出されたメニュー表には、いくつかの酒類とわずかなソフトドリンクの名前が書かれている。あまり種類は多くない。ここで何を注文するべきかは分かっている。 「まずは水を一杯貰おうかな」 「……はいよ。ごゆっくり」  店員は私を値踏みするように観察してから、水の入ったグラスと細いリストバンドを二つ差し出してきた。色は白と黒。事前に手に入れた情報に従い、それを二つとも左腕に着ける。直後、店内の緊張感が薄れ、他の客達の会話も再開される。  大っぴらにはしにくい王国では、こういった場所に同性愛者が集まっているらしい。口コミや専門の雑誌などで情報を得て、看板のないこの建物にやってきて、決まった注文をすることで同士であることをここにいる他の人にも伝える。男性同性愛者に限った話ではなく、他にもこの国では大っぴらにはしにくい趣味嗜好、または悩みなどを持つ者達が似たような方法で集まったりしているようだ。  ちなみに、その雑誌に関してもまた厄介で、ポルノなどの風紀を乱すようなものは王国内で出版できず、わざわざ国外で王国用のものを出版しているようだ。販売しているところは同じく街外れにある。私も頑張って探したぞ。  水を飲み干し、改めてドリンクを……度数の低い果実酒を頼んでから席を立つ。周りを見回し、改めて他の客の姿を見る。年齢はまちまちで、二十歳ほどの若い男から、私よりも年上と思われる男まで。一人で酒を飲んでいる者もいれば、複数人で談話している者も。この中で誰に近付くか考えていたら、一人でちびちび酒を飲んでいる若い男と目が合った。よし。 「座ってもいいか?」 「どうぞ」  年齢は二十歳を少し過ぎた程度だろう。金髪碧眼で、男臭さと幼さの同居したなかなかの男前な顔立ちに穏やかな笑顔を浮かべている。身体はしっかり鍛えられていて、なかなか魅力的な……男女問わず多くの人に好かれるタイプだろう。テーブル席に座る彼の、向かいに腰を下ろす。 「君はここによく来るのか?」 「うん。たまに、ね。住んでるのは王都の中心の方なんだけど、どうしても居心地が良くなくて。少し遠いけどこっちに来ちゃうんだ」  王都の中心部に住んでいるのはそれなりの地位や家柄にある者である可能性が高いが、その子供にとってもこの国が生きやすい国であるとは限らない。残念ながら彼にとってはこの国が生きやすい国ではなかったようだ。同性愛者であること以外にも理由があるのだろうな。 「ええと、お兄さんは……」  お兄さん? ああ、私のことか。そんな呼ばれ方をするとは思わなかったぞ。 「はは。私はもうお兄さんと呼ばれるような歳ではないよ。君とそう変わらない年齢の息子がいるぞ」 「ええっ、そうなんですか?」 「うむ。もうあちこち衰えてきてしまったよ」 「そんな歳には見えませんけどねー。あっちの方はどうなんですか?」 「それが……あっちの方はなかなか衰えてくれなくてね。まだまだ常に相手を探しているような状態だよ。どうかな。君も……」  試してみるか、と聞こうとしたところで、新たな客が入ってきた。ぼさぼさの短髪にひげもじゃの男。歳は三十代半ばほどか。それなりに体格は良いが、鍛えている、というよりは仕事などで自然についた筋肉のように思える。少し腹が出ているな。私と同じようにカウンター席に腰を下ろし、店員から注文を聞かれ、答える。 「あー、じゃあウイスキー。ロックでな」 「……はいよ」  店員が注文された酒を用意する。どうやらこの客は私とは違う情報を得てやってきたようだ。どんな客か分かるまでは他の客の緊張も解けず、店内は静かだ。やがて店員が酒を客に出してから尋ねる。 「お客さん、店のことはどこで?」 「ああ、職場の同僚からだ。イイ店があるから行ってみろって」 「……その同僚はここがどういう店だと?」 「えーと、これ、あんたに言っちまってもいいのかな? ここは男好きの連中が集まる場所だから、行けば気持ち良く抜いてくれるって聞いたんだよ」  どうやらそちらの客のようだ。この国では性産業への規制が厳しく、性的なサービスをする店がない。加えて、同性愛と同じく法的な規制ではないが婚前交渉や不特定多数の異性との性交渉などは良くないこと、とされているため、性欲の強い者はなかなか苦労しているようだ。その中で抜け穴のような(と言うほどでもないが)方法で性欲を処理する者がいる。  同性に性的な興味はなくても、性処理の道具として男を使う。そんなことがこの国ではこっそりと行われているようだ。使われるのは同性愛者だったり、性指向は関係なく立場の弱い部下や後輩などだったりと様々だ。国としては女性を性被害から守ることの方が重要のようで黙認されている。 「で、どうすれば気持ち良くしてくれるんだ? 追加料金とかいるのか? なあ、教えてくれよ。溜まってるんだよ」  男が店員に必死で尋ねるが、店員は何も答えない。代わりに店内の客達と目配せをする。客の方も客同士で目配せをし合う。そして、その中から二人組が立ち上がり、男に近付く。どちらも私とあまり変わらない歳だろう。 「じゃあ俺達が抜いてやるよ。ここじゃあマズいから地下に行くぞ」 「え……うへえ、ごっついおっさんかよ。せめてもうちょっと若い奴とかじゃないと勃たないかも……」 「俺達の方なんてわざわざ見ないんだからいいだろ。お前みたいなのが読むためのポルノ本もあるし、暗い部屋もある。気持ち良ければ相手がどんな奴だって勃つさ」 「そ、そういうもんか……まあ、頑張ってみるか……」  男は二人組に連れられて地下への階段を下りていく。釣られて他の客も何人か後に続く。危ない危ない。あの二人が立ち上がるのがもう少し遅かったら、私が立候補してしまっていたかも知れない。異性愛者の男に性処理道具として使われる、というのもなかなか興奮するシチュエーションだからな……どうやら私は意外とこの国が合っているような気がしてきたぞ。移住する気はないが。 「話には聞いていたが……ああいう客も来るんだな」 「うん。まあね。僕はまだ相手をしてあげたことはないけどね」 「君はその方がいいだろう。そもそもこういった場所に来ること自体、あまり推奨されない立場だろう?」 「ふふー。そうかもね。そっちもそうなんじゃないかなー」 「はは。確かにそうだな」  どうやら彼は気付いているようだが、それで私をどうこうしようというつもりはないようだ。 「ねえ、個室に行こうか。二人きりで話そうよ」 「そうだな。よし。それぐらいのお金は私が出してやろう。追加のドリンクなどが欲しければついでに頼むといい。私のおごりだ」 「おー、太っ腹ー。じゃあお言葉に甘えちゃおうかなー」  上の階にある個室。二人で入ってしっかり鍵を閉める。まずは下で頼んで持ってきたスパークリングワインを二つのグラスに注ぐ。向かい合って椅子に座り、二人でグラスを合わせてから一口飲む。安物だが悪くない味だ。 「君は……ああ、そろそろ名前を教えてもらってもいいかな。都合が悪ければ本名でなくて構わない」 「僕は……ブラッツ。そっちも名前を教えて欲しいなあ」 「私はリ……いや、リグ、とでも呼んでくれ」  本名を言ってしまいそうになり、慌ててごまかす。不自然さには気付かれただろうが、どうも最初からこちらのことを何か知っているような様子がある。まあ、お互い様だが。 「では改めて。ブラッツ、君はどんな男が好きなんだ? 別に、私のような年上が特別に好きというわけでもないだろう?」  色々と聞きたいことはあるが、まずは他愛のない話からだ。 「あはは。リグさんみたいなタイプも好きだけどね。ただ……本当に一番好きな人は、全然違うタイプ。少し年下で、綺麗な顔の子なんだけど……別にそういうタイプが好きってわけじゃないんだけど、その子のことは特別で……」 「理由なんてなくても恋には落ちるものだよ。その彼とはどこまでいったんだ?」  私はそのような本当の恋に落ちたことがないが、聞くところによるとそういうものらしい。 「残念ながら……その、こっちが一方的に相手のことを気にしてるだけで、向こうはまだ僕のことも知らないから……」 「なんだ、まだ声も掛けていないのか」 「うん。住んでるところも離れてるし、お互いの立場とかもあるから、なかなか気軽には声を掛けられなくて」 「もしかして、外国に住んでいるのか?」 「まあ、そういうこと。声を掛けて仲良くなれたとしても、いつもそう簡単に会えるわけじゃないからね」  性行為のために声を掛ける私のような者とは違って、それだけ本気だということだろう。応援したくなるが、立ちはだかる問題は多く、そう簡単にはいかないだろう。 「いつか、ちゃんと会いに行きたいなあ。アシュレム……」  そんなことを、ぼそりと言うものだから、私はワインを噴き出しそうになってしまった。呼吸を整えてから、こちらを心配そうに見るブラッツを手で制して口を開く。 「んんっ、ふう。はあ……君が、好きなの相手は、アシュレム、と言うのか」 「うん。まあ、そうだけど……」 「実は私も……君の言う特徴に合致するアシュレムという美男子を狙っていてね……私も仲良くなるどころか、こちらのことを知ってもらえていないのだ」 「あー……じゃあ恋敵だねー」 「いや……私の方は君のような本気の熱い気持ちはないよ。正式なパートナーの座は君に譲ろう。私は遊び相手にでもなれれば充分だ」  私のこの気持ちは恋とは違うものだろうからな……ブラッツの思い人があのアシュレム殿下であるのなら、私はその恋を応援することにしよう。実際に役に立てるかどうかは難しいが。 「しかし……彼のパートナーになるのであれば、君には一流の男になってもらわなければならない。というわけで、だ。男の喜ばせかたを身体で教え込ませよう」 「えー。じゃあ教えてもらっちゃおうかなー」  そういうわけで、ワインを飲み干してから二人でベッドに移動する。お互いの服を脱がせて下着姿に。いつもはもう少し猥褻な下着を着けているのだが、事情により今日は普通の白いボクサーブリーフだ。ただし穿き古しのものを選んだので、かなり透けている。 「リック……じゃなくてリグさん、良い身体してるなあ。凄く格好良いよ。衰えたなんてとんでもない」  ブラッツは私の身体を手で軽く撫でながら褒める。手つきのいやらしさはなかなかのものだ。素質があるな。 「そうか? お世辞だとしても悪い気はしないな」 「お世辞じゃないよー。でも……これはちょっと……、入らない、かも」  そう言って触れるのは、私の股間。薄くなった布を大きく持ち上げる一物。入らない、とは言いつつもパンツをずり下ろし、一物に直接触れて優しく握る。顔を近付けて、舌で舐めてきた。 「大丈夫だ。痛くないように挿れる方法はある。ああ、そこが感じるぞっ」  思いのほか巧みな舌使いに声を上げる。責め方がどこか、私のよく知るあの人に似ている気がした。私の大きすぎる一物に精一杯舌を絡ませ、しっかり感じさせてくる。 「んんっ、リグさんの、チンポ……大きいなあ……すごい……」  入らない、とは言いつつも、どこかうっとりとした表情で顔を寄せ、丁寧に舐めてくる。誰にでも好かれそうな爽やかな青年でありながら、こんなにも好き者だといいうところがいいな。いかん。興奮しすぎるとすぐに出てしまう。舐めるのを辞めさせ、尻をこちらに向けた仰向け姿勢を取らせる。  パンツを脱がせて、脚を抱えさせて尻穴を少し上に向ける。そこに指を触れさせ、魔術で中を洗浄する。それからローションを付けた指を挿入し、更に魔術を掛ける。それによって大きすぎる私の一物が問題なく入るよう、尻穴が柔軟になる。もう一物を突っ込んでしまってもいいのだが、今日はしっかりと感じさせなければならない。  指で尻の中を探っていく。まずは感じる者が多い前立腺を探り当て、しばらく刺激する。その刺激にブラッツは可愛い喘ぎ声を上げる。続けて指を少しずつ奥まで侵入させていき、届く範囲まであちこちを刺激していく。反応を見ながら弱いところを探すが、なかなかここぞと言うところに行き当たらない。もう少し範囲を広げるため、指先に魔力を集中し、念動を指先の延長として使い、指では届かない奥までを刺激してやる。 「ああ、それっ、リグさん、気持ちいいよっ……」  ブラッツは快感に声を上げながら一物から汁を漏らす。この辺りは指ではなかなか届かないが、一物ならば充分に届く位置だ。ここがこれだけ感じやすいのなら、ウケとしての素質は充分に……いやしかし、アシュレム殿下もウケだと聞いたようなっ……まあ、いいか。 「男の尻の中には色々と性感帯があるが、感じ方は人によって違う。相手がどうされるのが好きなのか、しっかり見極めるんだぞっ。わかったかっ?」 「はいいっ、リグさんん……ああ、んん、んぐうううっ……」  そのまま責め続けていたら、しばらくしてブラッツは身体を大きく震わせ、まだ触れていない一物から精液を放った。それは腹から顔にまで降り注いだ。やはり、素質があるな。指で責めるのはここまでにして、次の段階に進もう。 「ではそろそろ私の一物を挿れるぞ。既に充分ほぐれているが、私の一物は刺激が強いからな。覚悟して受け入れろっ」 「うあい……」  ブラッツは力の入っていない手で自分の尻たぶを掴んで広げる。私は自分の一物にローションをしっかり塗りつけると、その穴にあてがいゆっくり押し入った。 「うぐうううっ……」  魔術のおかげで私の大きすぎる一物が難なく呑み込まれていく。そのまま根本まで押し込むと、それだけでブラッツの一物は再び汁を漏らし始める。ブラッツが手を伸ばし、私の一物の根本に触れた。 「ああ……本当に入ってる……あの大きいのが……」 「そうだっ。この国じゃああまり使われないようだが、魔術の補助があれば男同士の性行為がとてもやりやすくなるぞ。ほら、どうだっ。こんなに激しく突いても大丈夫だろうっ!」  一物を大きな動きで何度も抜き差しさせ、奥までしっかりとえぐり込む。一突きするたびに、尻穴が私の一物を離すまいと締め付けを強くする。どうやらこの尻穴は、私の精液を搾り出したくてたまらないようだ。 「ああっ、うん、大丈夫……じゃないっ、逆に、あああ、刺激がっ、強すぎて……」 「なら良しっ。思い切り感じるといいぞっ」 「そん、なっ……ああ、もう駄目だっ。また、ああああっ!」  ブラッツがまた声を上げ、先程よりも大きく身体を震わせる。今度は一物から何も出てこない。そのまま尻を突き続けてやると、精液の代わりに透明な液体を噴き出し始めた。 「可愛いぞ、ブラッツ! 私も我慢できん! 君の中に出すぞっ! おおおっ!」  もう少し我慢したかったが、ブラッツの尻穴はとても具合が良く、長くは耐えられなかった。奥深くまで一物を突き込み、大量に精液を送り込む。射精が終わり、一物を抜こうとすると名残惜しそうにまた尻穴が締め付けてくる。可愛い尻穴だ。 「ふう……どうだ。少しは相手を感じさせるコツが分かったか?」 「え? あー……駄目かも。学んでる余裕なんてなかったよ……」 「では仕方がないな。今度は攻守交代だ。次は私の尻穴を使って、実践で相手を感じさせる訓練だっ!」 「ちょっと待って……そんなに続けて出来ないよう」  ブラッツの一物は、全てを出し切ったようにぐったりとしていた。私の一物はまだこんなに元気なのになあ。まあ、仕方がない。 「ではしばらく休憩しよう。ベッドの中でゆっくり話でもしようじゃないか」  そもそもそれが目的でここに来たのだったな。あわよくばついでにセックスを……とは思っていたが、つい夢中になってしまった。  それから二人で色々な話をした。他愛のない話から、お互いの故郷についてなども。私はもちろん出身をぼかして話したが、恐らく私がどこの者かは分かっているのだと思う。  そこから今現在の王国の状況やなども少しだけ聞くことが出来た。ブラッツから見ても、今現在の王国の状況はあまり好ましくない状態らしい。やはり王国軍を率いる元帥が大きな力を持っているのが一つの大きな問題のようだ。 「君から見て、元帥はどんな男だと思う?」 「うーん……あの人は、無理してる気がするなあ。この国があんまり居心地良くなさそうに見えるんだよね。あんなに力のある立場にいるのにね」 「そうか……」 「助けてあげられたらいいんだけど、そう簡単にはいかないからね」  助ける、か。まあ、その判断は私がするべきことではない。私は当初の予定通りの任務をこなすだけだ。 「状況は?」 「はい。現在王宮に侵入している二人組に対し、警備兵に加えて王国軍の精鋭を投入して抗戦しています。二人組は王宮内をばらばらに動き回りながら連携して攻撃を仕掛けてくるため、同士討ちの危険もあるので、こちらからは有効な打撃を与えられていません」 「国王陛下の身は確実に衛れ。ブライ殿下は隙を見て王宮の外へ避難させるんだ。それから……む、そう言えばもう一人はどうなっているんだ? そうだ、リックハルトだ」  『代わりのいる男』……奴はどうしているのだろうか。王宮に侵入したのは奴の息子二人のみ。要注意人物ということだが、何を注意すればいいのか肝心の情報が足りない。 「それが……先程入った情報によると、リックハルトは国外へ出てしまった模様です。偽名を使っていましたが、国境を通過する姿が確認されています」 「何だと?」  では奴は帝国からここまで何しに来たというのだ? まさか子供の引率に来ただけ、ということはないだろう。そもそも奴が同行していなければ、こちらは息子二人の正体すら分かっていなかった可能性が高い。顔の知られている奴がわざわざ王都にまで来た理由は? 「……ここで考えても答えは出ないな。国外へ出た振りをしてまた戻ってくる可能性や、更に仲間を連れてくる可能性などもある。とにかく警戒は続けろ」 「分かりました。非番の者も招集して警戒に当たらせます」  部下が急ぎ足で部屋を出て行く。一人部屋に残った私は、リックハルトのことを考える。奴の何を注意すべきなのか。そして何の目的でやってきたのか。そして今、どこにいるのか……  広い部屋で一人、神聖アースガルド王国軍元帥、ヴィルヘルム・プフェルトンが考え事をしている。一人きりで……と、思い込んでいるその背後に、この私が潜んでいることには全く気付いていない。  ゆっくり忍び寄り、ヴィルヘルムの後ろから手を回し、首に腕を回して締め付ける。泡を吹いて昏倒するまでの間も、奴は私の存在に気付かない……いや、存在を認識できない。  私はぐったりとしたヴィルヘルムを担ぎ上げ、誰にも気付かれぬまま王国軍本部を後にした。  僕は兄と二人、王宮に侵入して王国軍と戦っていた。兄とはかなり距離が離れてしまったが、事前にしっかり準備をしたおかげで、遠く離れても思念による会話が出来ている。  僕達はここで王国軍を倒す必要はない。二人とも化粧魔術で獣化した状態で暴れ回り、軍の注意を引きつけるだけでいい。その間に……王国軍全体に動揺が広がる。わずかに聞こえてくる情報を総合すると……指示を出していた元帥が消えた。  注意を引きつけ、時間を稼いでいただけの僕達は、もうここで戦い続ける理由はなくなった。兄と話し合い、タイミングを合わせて外に逃げ出す。わずかな手荷物を回収し、僕達もすぐに王都を後にした。  神聖王国に向かったリックハルト副隊長ら三人が、予定ではそろそろここに戻ってくる頃だ。  副隊長の部下として私は帝国からここ、王国の隣国にある拠点まで同行し、様々なサポートをするため待機している。危険な任務に就いている三人を、いざとなれば命を賭してでも救出する。一人ではどうにもならなければ応援を要請する。 「ふうう……戻ったぞ」  急に目の前に、男を担ぎ上げたリックハルト副隊長が現れた。服も靴も何も身につけていない全裸で、身体の表面には複雑な文様が描かれている。 「ご無事で何よりです」 「うむ。こちらは無事に終わったぞ。目標物もこの通り、だ」  副隊長殿が担いできた男は、まだ魔術により眠らされている。事前に写真を見た王国軍元帥、ヴィルヘルム・プフェルトンだ。今回の任務は、副隊長殿の御子息二人が王宮に侵入し、暴れて注意を引きつける。その間に副隊長殿が身を隠して元帥を捕らえてここまで逃げてくる、という流れだ。あとは御子息二人が無事に逃げてくれば私の待機任務も終わりだ。それにしても…… 「相変わらず、副隊長殿のその制御力は素晴らしいですね」  存在を希薄にすることで全く認識されなくなる大魔術。全身に施されたペイント……化粧魔術はそのためのもので、魔術の精度を高めるためには衣服も身につけられない。世界から消え去る寸前まで存在力を弱めるため、制御に失敗すれば世界そのものから完全に認識されなくなってしまい、本当にこの世から消えてしまう。とても危険なので、帝国では許可なく使用することは禁止されている。  副隊長殿はこんなに難易度が高く危険な大魔術を、若い頃から何度も使用してきたという。そして今こうしてここにいるということは、一度も失敗していないということだろう。副隊長殿がこの魔術を使って様々な任務に就いていることは一部の人間しか知らないが、私としては是非みんなに知って欲しいと思っている。そして、副隊長殿のことをもっと尊敬すべきだ。育ちは良いがただのスケベなおっさんだとか、変態のくせになんでそんなに高給取りなのか、とか言わないであげて欲しい……スケベで変態なのは事実だけども。 「私としては、後の世代の者がこんな魔術を使う必要がないようになって欲しいのだがな。可愛い部下や息子達をそんな危険な任務に就かせたくはない」 「……私は副隊長殿のことが心配です。いつか失敗して消えてしまうのではないかと……ですから、早く私を後継者にして、この任務からは退いて欲しいのです」 「そうか……うむ。その気持ちは嬉しいぞ」  副隊長殿が私を抱き締める。ああ、まだ裸のままの副隊長殿にこんなことをされたら……身体が反応してきてしまう。まだ完全に勃ち上がる前に身体を離した。 「まあ、私の感情がどうだろうと、お前の指導はしなければな。お前が消えてしまわないようにするためには、しっかりと指導をした方がいいだろう」 「はい。これからもよろしくお願いします。ところでその魔術を制御するコツとか、何かあるんですか?」 「コツは……そうだな。私のように『代わりのいる男』になることだな。自分が急に消えても困らない状況にしておいた方が、存在力を弱くしやすいぞ」 「それはそれで難しいですね……」  何でも出来る代わりに特別に優れた点のない、自分は代役はできるが、いなくなってもその代わりはいる。そんなことから一部でそう言われるようになった不名誉な二つ名。そうなるためには、まずあらゆる勉強・訓練をしなければならない。まずはそういう軍人になれ、ということなのだろう。 「ちなみにもし失敗しても手当がついてそれなりの金銭が入るから、残した家族のことも心配ないぞ。安心して任務に専念できる環境は整えてくれているのだ」 「私はそちらの心配は今のところありませんけどね……」  そう言う意味では、私のように身軽な状況の方が向いていたりするのだろうか、と思ったら…… 「それともう一つ。私のように……とまでは言わないが、家族でも恋人でも友人でも、しっかりとしたつながりを多く作っておくことだ。そして今回のように、任務の際には補佐として同行させる。そうすれば完全に消えてしまう可能性をわずかに下げられるぞ」 「はあ……」  それはまた難しい。副隊長殿のように何人もの女性との間に子供を作る、などということは私にはできない。友人も少ない。今のところ恋人もいない……うう、後継者への道は遠そうだ……  元帥を改めて拘束し、副隊長殿の身体の塗料を落として服を着せ、エネルギー補給のための食事を用意したところで御子息の二人も戻ってきた。あとは元帥を帝都まで運べば今回の任務は全て終了だ。三人とも無事で良かった。  待ちに待ったこの日がやってきた。  久しぶりの大きな任務を終えれば、私には大きな報酬がある。金銭的な報酬もあるのだが、私にとってはそれよりも大きいものがある。 「よくやった、リックハルト。お前に報酬をやらなくちゃな。今回は何がいいんだ?」  陛下のこの問いにはいつも悩む。今の私が欲しているものは……これだっ。 「犬の散歩プレイでお願いします!」 「よし。期待して待ってろ」  というやりとりがあってから数日後の夜。私は帝都のとある公園にいた。隣にはガルヴェイス陛下が立っていて、リードを手にしている。そのリードが繋がっているのは……私に着けられている首輪だった。 「よし。じゃあ少し散歩するぞ」 「うう……」  返事をしようとしたができなかった。頭に着けられた犬の耳……の形をした魔導アイテムが、言葉を発することや二本脚で直立することなどを制限している。手脚の地面につく部分はサポーターや手袋などで守られていて、四つん這いでも長時間歩くことができる……が、普段あまり使わない筋肉を使うため、後で身体のあちこちが痛くなる。  リードを引かれて四つん這いで歩くと、それだけで興奮を覚えてしまう。一物はずっと勃ちっぱなしで、尻尾付きのプラグのはまった尻穴はうずきっぱなしだ。  誰かが歩いてくる。なかなか良い身体をした中年男だ。私の姿を目にすると、いやらしい笑みを浮かべた。近付いてきて、陛下に話しかける。 「なかなかいい犬を連れてるな。あんたが飼い主か?」  などと無礼な言葉遣いの男に噛みついてやりたくなるが、このような状況では一般人として扱ってほしいというのは陛下の意向であるので、私からは何も言えない。 「ああ。俺のペット……と言いたいところなんだがな。本当は軍用犬なんだ。まあ、俺の隊の所属で俺が世話してるから、俺の飼い犬みたいなもんだな」  陛下の飼い犬……ああ、とても良い響きだ。嬉しくてつい、プラグに魔力を通して無理矢理尻尾を振ってしまう。 「じゃあ、ちゃんと躾けられてるんだな?」 「まあな。よし、お手!」  指示に従い、手を出したり回ったりする。そして後ろ脚で立つように指示され、それに従うと先走りを漏らす一物が露わになる。 「わはは、元気いっぱいだな」 「言うことはちゃんと聞くんだが、年中発情してるのが難点だな。よし、行けっ」  許可が出たので中年男に駆け寄り、手を使わずになんとかズボンのファスナーを下ろし、パンツから一物を引っ張り出す。半勃ちのそれに食らいつき、舌をしっかりと絡めつつ口全体で刺激する。 「おおっ……何だ、こいつの口っ……すげえ、気持ちいいぞっ……」  口の中で一物が大きく硬くなっていく。この男も加齢に負けぬなかなかの一物の持ち主だ。奥まで呑み込んで喉で締め付けてやると、たっぷりと先走りを溢れさせてくる。頭を押さえつけられ、そのまましゃぶり続けると口の中に大量の精液が吐き出された。何も出なくなるまで吸い上げ、それでもしつこく舌を絡ませると、耐えきれなくなったのか私の頭を引き剥がして離れた。 「あー、スケベな犬だぜ。たっぷり搾り取られちまった。じゃあな。また会ったらよろしく頼むぜ」  中年男が私の頭をもしゃもしゃと撫でて離れていく。後にはにやにやと笑みを浮かべると陛下と、尻穴をうずかせた私が残される。興奮が収まらず陛下に近付くと、再び歩き始めてしまった。  またしばらく歩くと、今度は若い男がこちらに歩いてくるのが見えた。私はその顔に見覚えがあった。同じ部隊に所属する、私の部下であるエイクレスだった。つい数日前に任務で行動を共にしたあの男が、まさかこんなところにいるとは……エイクレスは戸惑いながら陛下に話しかける。 「あのっ、そちらの方は……その……」 「ん? こいつは犬だ。触ってもいいんだぞ」  また陛下の指示で、再び後ろ脚で立つポーズを……私の場合はしゃがんだ姿勢を取る。そんな私の姿を見て、エイクレスの喉がごくりと動く。先程の中年男のように気持ち良くしてやりたいが、陛下の許可が出ていないので我慢するしかない。エイクレスの手は何度か私に向けて伸びかけるが、触れずに戻っていく。 「じれってえなあ。触って欲しがってるんだからちやんとやってやれ。ほら、こうだぞ」  陛下がエイクレスの手首を掴んで私の股間に誘導し、無理矢理一物を握らせる。エイクレスは戸惑いながらも私の一物を優しく握り、扱いていく。こんな場所で、こんな恰好で陛下に見られながら、部下に一物を扱かれるという異常な状況に興奮してしまい、私はあっという間に絶頂に達してしまった。 「ううっ、ぐうううっ……」 「なんだ、もう出しちまったのか。そら、お前のザーメンで汚れちまってるぞ。ちゃんと綺麗にしてやれ」  目の前に差し出されたエイクレスの手には精液がべっとりとついていた。私は自分の出したそれを舌で丁寧に舐め取る。自分の精液など好きではないが、こうやって自分で舐めさせられたりするのは興奮してしまう。 「よし。じゃあそいつのも気持ち良くしてやれ」  やっとその指示が出たので、私は勢い余ってエイクレスを押し倒してしまった。そのままズボンの前から一物を引きずりだし、既に硬く勃ち上がり先走りを漏らしているそれにしゃぶりついた。 「うああっ、副隊長殿っ……」  私は今犬だということになっているのに、ついいつもの呼び方をしてしまうエイクレス。軽いお仕置きのつもりで口と舌による責めを一気に激しくすると、エイクレスは私の頭を引き剥がそうとするが、その程度で離れるほど私は弱くない。こっそり魔術を発動して四肢を拘束し、責め続ける。 「ああっ、駄目です、もう、ああああっ! あぐああっ、うう、んん、んぎいいいっ!」  私の口の中に勢いよく射精したエイクレスは、そのまま続けられる私の責めに快感なのか苦痛なのかはっきりしないような声を上げる。しばらくそのまま責め続けていたが、二発目を出させる前にリードが引かれ、中断させられてしまった。拘束の魔術も陛下に解除され、エイクレスがふらふらと立ち上がる。 「悪いな。うちの犬はドスケベなんだ。良かったら、次に会ったときにはまた相手してやってくれよ」 「はい……では……」  短時間ですっかり体力を消耗したエイクレスが離れていく。私は一度射精したにも関わらず、一物はずっと勃ち上がったままで、興奮は収まるどころかより高まってしまった。そんな私の状態を知っている陛下は、まだ私の身体を直接責めることはしてくれない。  その後も何人かの男と遭遇し、そのたびに責めたり責められたりを繰り返す。射精はしても、身体がまだ満足していない。更に散歩を続けると、開けた場所に東屋が建っているのが見えた。洒落たデザインの東屋だが、この時間、この公園に集まるのは一夜の相手を求める男好き連中ばかりである。私も何度も来ているのでよく知っている。 「一休みするか」  陛下が東屋のベンチに腰掛ける。私はベンチに腰掛けることは許されていないので、その目の前にしゃがみ込む。脚を大きく開いて座っている陛下は、ズボンの股間の大きな盛り上がりを見せつけてくる。指示も許可も出ていないが、我慢できずに顔を近付けて布越しに顔を擦りつける。 「相変わらずお前はスケベな犬だな。そんなに欲しいか?」  その問いに、言葉を発することが出来ない状態の私は何度も頷いた。口を開けて、それをくれるのを待つ。 「しょうがねえなあ。ほらよ」  陛下は自分のズボンのファスナーを開け、一物を露出した。リードを引かれ、顔をそこに押しつけられてそれにしゃぶりついた。今日は何人もの一物を味わったが、やはりこれは特別だ。敬愛する陛下の一物をしっかり味わう。 「ほら、みんな見に来てくれたぞ。お前のやらしい姿、しっかり見せてやろうぜ」  一物が引き抜かれ、陛下は私の頭を掴んで引き寄せる。口の中に舌をねじ込まれ、ねっとりと濃厚な口付けを交わす。視線を感じる。東屋の周囲には何人もの男達が集まっていて、私と陛下の様子を見ながらそれぞれ自分の一物を弄ったり、隣の男と触り合ったりしている。  見られていることに興奮しながら、二足歩行ができない状態の私は身体を起こし、東屋の柱にしがみついて陛下に尻を向ける。ずっとはまったままだった尻尾付きのプラグを引き抜かれ、すぐに別のものが入ってきた。この感触は間違えようがない。陛下の一物だ。 「これが欲しかったんだろ。今日はお前へのご褒美だからな。たっぷり感じさせてやるぞ」 「うぐうううっ!」  強い一突きに、私の一物から勢いよく汁が噴き出る。そこに陛下の手が伸びて、汁まみれの一物をこね回されると身体に力が入らなくなってしまう。 「んぐううっ、うう、うあああっ、ああ、あぎいいいっ!」  私は強すぎる刺激に悶え、一物からは白濁した汁やら透明な液体やらを漏らす。今までに何度も身体を重ねている陛下は、どうされると私が興奮し、感じるかを熟知している。おかしくなりそうなほど感じさせられ、やがて私の一物からは何の液体も出なくなる。 「よし。じゃあそろそろこっちも出してやるからなっ。そらっ、俺の……ああ、出るっ、おお、おあああっ!」  陛下がその身を何度も震わせる。その一物が脈打ち、精液を吐き出しているのが分かる。それに私は興奮し、幸せな気持ちでまた絶頂に達した。もう何も出てこなかったが、今日一番の強い快感だった。  その後、私は身体に力が入らず、後始末を陛下にさせるといういつもの失態を演じてしまう。落ち着いた頃、既に犬の耳型魔導アイテムは外されていた。見ていた連中が帰った後、二人でベンチに座って話す。 「どうだ。満足したか? 今回は久しぶりに頑張ってくれたからな。お前のためにきっちり準備して、人数もこれだけ集めたんだぞ」 「はい……ありがとうございます。とても幸せな時間でした」 「お前のおかげでまたしばらくは王国を大人しくさせられそうだ。感謝してる。この程度じゃあお前の働きには見合わないだろうが……」 「そんな……とんでもない。私は充分な報酬をいただいていますから。またいつでもお申し付け下さい} 「そうか……今後もお前に負担を掛けることがあるかも知れないが……また、俺を助けてくれるか?」 「はいっ。喜んで! 今後も変わらず陛下と殿下、そして帝国のためにこの身を捧げさせていただきます!」 「その時は……またこうやってちゃんとご褒美を貰いに来るんだぞ。お前が直接受け取りに来ないと駄目だからな」 「はい、陛下……」  陛下は私を抱き寄せ、頭を自分の胸に抱えるようにして抱き締めてくれた。私の方が年上だが、子供に戻ったようだ。とても幸せな気持ちだった。  さあ、明日からも敬愛する陛下のために生きていこう。